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コラム

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歯周病③

3.喫煙が歯周病のリスクファクターであり、歯周治療の結果に影響を及ぼすともいわれていますが、なぜでしょうか?

たばこ産業の「平成26年全国たばこ喫煙者率調査」によると、成人男性でタバコを吸う人の割合は平均30.3%でした。 これは、ピーク時の昭和41年の83.7%と比較すると、53ポイント減少したことになります。 このように日本人の喫煙率は、減少し続けていますが、諸外国と比べると、まだ高い状況にあり、約1500万人が喫煙していると推定されます。

 タバコを吸うと、がん、脳卒中、虚血性心疾患、呼吸器疾患などの危険にさらされる ことは良く知られていますが、それだけでなく喫煙は歯周病のリスクファクターでもあります。 タバコを吸う人は吸わない人と比べると、歯周病になりやすく、しかも重症化する 傾向にあるといわれています。具体的には、1日あたりのタバコの本数に比例して、深い歯周ポケットが形成され、 歯のまわりの骨が吸収するので、歯はグラグラと動くようになり、最終的に歯は抜けてしまいます。

 タバコを吸うと、その成分であるニコチンのはたらきによって、血管が縮むので、体のすみずみまで血液が届かなくなります。 血液が十分届かない組織は酸素が不足します(これを低酸素といいます)。 口の中には低酸素の状態でも増えることができる細菌がいます。その代表が歯周病原菌です。 つまり、タバコを吸うと歯周病原菌が増加します。 さらに、歯ぐきなど歯周組織には血液が十分届かないので、免疫機能は低下し、炎症反応や結合組織・骨代謝も異常となるので歯周病がひどくなるのです。

 禁煙しないでタバコを吸い続けている状態で、歯周治療を受けても、歯周病は決して治りません。 禁煙すれば、歯周ポケットが正常になる、歯周病原菌が少なくなる、歯肉に十分な血液が行き渡る、免疫・炎症応答が正常に戻る、 などの改善がみられると報告されています。

 また、禁煙のプログラムと口腔ケアのプログラムには密接な関連のあることがわかっています。 禁煙に成功する人は口腔ケアを上手にできるし、口腔ケアの上手な人は禁煙プログラムにも成功する、ということです。 歯周治療やインプラント治療を受けるときの優先順位は、禁煙が1番です。必ずタバコをやめて、治療を受けるようにしましょう。

著者プロフィール

下野 正基(しもの まさき)

東京歯科大学名誉教授。1970年東京歯科大学卒業、 1974年ミラノ大学医学部薬理学研究所客員研究員、 1976年学位受領(歯学博士)東京歯科大学、 1991年東京歯科大学病理学講座主任教授、 1998年東京歯科大学学監、2005年 FDI(世界歯科連盟)理事、 2011年東京歯科大学定年退職。

著書(近刊)「新編治癒の病理、臨床の疑問に基礎が答える」(単著:医歯薬出版)、 「やさしい治癒のしくみとはたらき」(単著:医歯薬出版)、 「歯肉を読み解く」(共著:医歯薬出版)、 「新版口腔外科・病理診断アトラス」(監修・共著:医歯薬出版)、 「下野先生に聞いてみた①ペリオ・インプラントの疑問に答える、指針がわかる」(単著:クインテッセンス出版)、 「新口腔病理学 第2版」(編集・共著:医歯薬出版)、「下野先生に聞いてみた②エンドの疑問に答える、指針がわかる」(単著:クインテッセンス出版).